ボルドーとブルゴーニュ ワインの違いの背景

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なぜ、ブルゴーニュでは畑が細分化されていて、ボルドーではシャトーの所有者が変わっても畑の面積は維持されてきたのか。

ボルドーとブルゴーニュと言えば、言わずもがなフランスを代表するワイン産地だ。

しばしワイン好きの間ではボルドー派かブルゴーニュ派かで議論になるし、ボルドーは女性的とかブルゴーニュは男性的とか、何かと対比されてきた。

世界ではボルドーを手本としてカベルネのワインがたくさん作られており、有名なオーパス・ワンやスーパータスカンの成功例など枚挙にいとまがないが、一方、栽培が難しいとされるピノ・ノワールもタスマニアやオレゴンなどの冷涼な生産地で成功を収めている。個人的にはカリフォルニアのロマネ・コンティのキャッチフレーズで有名なカレラが好きだ。

さて、ボルドーと言えば、広大な敷地に荘厳なシャトーがそびえ、見渡す限りの整然とした畑が広がり、かたやブルゴーニュは、ここがかのロマネ・コンティの畑かと、ただ十字の塔が建っているだけの小さな区画から世界的に有名な極上のワインが生まれる事に驚く。そもそもワインの格付けや仕組み自体も全く違うので勉強したての頃に戸惑った。

かねてから疑問に思っていたことがある。

何故ボルドーは作付け面積が大きく、ワインが大量に生産されるのに対し、ブルゴーニュの畑は細分化され、所有者も複雑でワイン生産量は相対的に少ないのか。

この両者の性格の違いにはフランス革命が大いに関係している。

ボルドーとブルゴーニュでは、そもそもワイン作りの起源が違う。

まずボルドーだが、ボルドーの市街地の喧騒にうんざりした貴族たちは、メドックに壮麗な館を建てて住んだ。そして自家消費用にワインを作った。消費しきれない分を売りに出したところ評判を呼び、これがシャトーワインの原型となった。また、ボルドーは港町だ。イギリスとの交易で栄えてきた。貴族の自家消費用とは別に、ネゴシャンが量産型のワインをブレンドして、そのワインはイギリスへと輸出されていた。

一方ブルゴーニュワインは、シトー派の修道士がワイン作りを始めたのがきっかけだ。ワインは神への捧げ物でもあるし、キリスト教とワインは切っても切り離せない。かれらは教会の土地をせっせと歩いて調査し、地質や諸条件の特徴別に細かく区切った。驚くべきことに、それが今日でもほぼそのままクリマ(区画)になっている。つまり陽当たりも水捌けも良い特別な区画は当時から現在までグランクリュなのだ。

ここで前述したフランス革命が起きる。

ボルドーでもブルゴーニュでも、畑は没収される。

ボルドーではシャトーの持ち主であった貴族が逃げてしまっていたため、支配人がブドウの世話をしワインを醸造した。そうした環境の中で、醸造長がカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローが優れていることを発見し、今日のボルドーワインが出来上がっていった。それまではマルベックや、他にも今では使われない様々なブドウがいい加減に混植されていた。そしてここでイギリスが出てくるのだが、交易を通してイギリスとの結びつきが強かったボルドーでは、畑の分割所有を避けるためにイギリスの遺言制度を見習って、遺言でシャトーの分割を避けた。また、シャトーを株式会社にし、子供達に株を持たせることでシャトー自体を分割させないようにもした。シャトー自体は物凄く高価で、運営にも多額の資金が必要なので、その後多くは金融界の手に渡っている。シャトー・ムートンもシャトー・ラフィットもロスチャイルド家のものである。ちなみに格付け3級のシャトー・ラグランジュはバブル期にサントリーが購入し、今日まで同社のものである。東洋のメーカーの手に渡るなんて当時としては前代未聞で、猛反発があったようだが、サントリーは設備を一新し、荒廃していたシャトーを盛り返した。その後酒質はみるみる良くなり今ではボルドーからも歓迎されているようだ。

一方、ブルゴーニュの畑はほとんど教会の持ち物だったが、これらはディジョンの大商人(と一部は農民)に没収された。そして相続の際にはナポレオン法典に則り子供の数だけ分割された。だから一つの区画を複数のドメーヌで所有しているのだ。だから一口にエシェゾーだとかモンラッシェだとか言っても、それはどのドメーヌのエシェゾーやモンラッシェなのかということが重要になってくる。もちろんビンテージも重要なのは言うまでもない。その年の出来栄えがどうかということ以外に、所有者が代替わりして作り方が変わっているかもしれないことも加味しなければならない。もっともこれはブルゴーニュに限った話ではないが。

その後フィロキセラなどにより商人がドメーヌを手放したあと、農家が買い取ったが、農家の資力により更に畑は細分化されていった。こうして、ブルゴーニュは素晴らしいワインを作る小さなドメーヌを輩出するようになった。

一言にまとめると、ボルドーは貴族が守ってきたワイン、ブルゴーニュは民主化されたワイン、と言える。

それぞれの地方のワインの辿ってきた歴史を考えながら飲むのもまた面白い。

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